小舟が停泊する小さな港。沈む夕日を背に、犬とともに歩く人。徳島県阿南市のそんな穏やかな風景の中に、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギー事業とエンジニアリング事業を主軸とする企業・GFの新本社は誕生しました。
2023年にGFが創業50周年を迎えたことを契機として、桑野川の対岸にあった旧本社から高台への移転を決断。新本社の設計にあたっては、再生可能エネルギーの普及を通じた持続可能な社会の実現や、地域との共創を目指すGFの企業姿勢を反映し、自然環境との調和や地域とのつながりをテーマに掲げました。
この社屋がどのように地域と企業をつなぎ、新たな価値を生み出したのか──その設計手法をご紹介します。
従業員と地域住民を守る、開かれたオフィス
GFの旧本社は津波浸水域に位置していたため、津波や河川の氾濫などの自然災害から従業員や地域住民を守るべく、より安全な場所へ本社を移転する計画が始動。対岸の高台にさらに盛土を施し、津波の想定最大水位よりも約1m高い位置に新社屋を建設しました。
桑野川に沿って東西に直線的に伸びる平面形状、かつ周辺の住宅の高さに配慮した2階建ての社屋です。
- ※1 TP
Tokyo Peil(東京湾中等潮位)。東京湾の平均的な海面の高さを示す、標高の基準となる水準面
さらに、西側の住宅地に向けては屋根の高さを下げる一方で、東側の川と海に向けては高さを上げ、周辺環境との調和と開放的な執務空間の両立を実現しました。
周辺地域との間に塀をなくすことで、災害時には地域住民の避難も受け入れる、地域拠点の役割を担うオフィスを目指しました。
自然とつながる、心地よいワークスペース
2階のメインオフィスは、川沿いの豊かな外部環境を最大限室内に取り込めるように計画しました。
北側の桑野川、東側の海に向けては眺望を求めてガラスカーテンウォールとする一方、南・西側は壁面で構成。西側は住宅からの視線を遮る壁、南側は縦動線を含めた設備機能を集約する壁としています。
北・東側の日射を遮るひさしの内部にスリットを設けて給排気口として利用し、空調設備機器も天井に納めたことで、眼前に広がる景色と執務空間を遮るものが何もない、開放的なオフィス空間を目指しました。
また、西側の住宅に配慮して階高を抑えながらも、メインオフィスでは窓際を除く内部空間を直天井としたことで、最小の階高で最大限の天井高を確保しています。
さらに、オフィスのどこにいても外部環境を取り込めるように換気窓を計画しました。柱間に2カ所ずつ、開く方向を交互にしながら縦すべり出し窓を配置したことで、川沿いの心地よい風を室内に取り込める設計です。
地域住民との自然な距離感を育むエントランス
1階には大階段やカフェなど、地域住民も利用可能な空間を複数設け、従業員と地域住民の憩いのスペースとなることを目指しました。エントランス脇のカフェ「Bon Voyage」は、従業員利用だけでなく、地域住民にも週に一度開放し、地元食材を活用した日替わりランチなどを提供しています。
また、敷地西側では、住宅地との間に優しい境界をつくるため、旧本社屋から移植した樹木を配した庭園を整備し、その庭園と一体になるように緩やかな曲線を取り入れた会議室「GAIA(ガイア)」を計画しました。
庭園を介して向こう側に見える社寺を借景としながら、企業と地域の歴史・未来へ思いをはせる空間を目指しました。
人と人がつながるアトリウム──海へ開く大階段
東側の海に向かって大きく開いたような開放的な吹き抜け空間に、日常動線、ワークスペース、朝礼・講演スペースとしても利用可能な階段状のアトリウムを設けました。大階段下の空間を利用してカフェの厨房、災害時のストックヤードとしての機能をもたせています。
2階の大階段周囲には、周辺の景色を望みながら仕事のできるインナーバルコニーと、東の海を一望できるアウターバルコニーを計画。インナーバルコニーでは、柱の代わりにタイロッド(細い鋼棒の構造材)による吊り構造を採用し、大階段からの眺望が阻害されない開放的な空間を実現しました。
アトリウムは、普段は従業員の交流の場として、時には地域イベントの会場としても活用されています。
廃材を再利用した家具
アトリウムでは、GFが運営する太陽光発電所で使用していたケーブルドラム(電線やケーブルをまとめる巻き取り台)を再利用した机や、GFが所有する古民家の梁を活用したカウンターを計画。地域の素材を活用し、地域に根差して永く愛されるオフィスを目指しました。
地域に開かれたオフィスとして、イベントやカフェでの交流、防災拠点としての安心を届けているGF本社棟。
その姿は川と海を進む一隻の船のように、これからも企業と地域の思いを乗せて新しい価値を運んでいくことでしょう――。